「……次は玉葱さん」
名前を呼ばれ、立ち上がる。
教室中の視線がこちらに向くのを感じながら、ゆっくり口を開いた。
「玉葱誠です。家が近かったので、この高校を選びました。妹が一人います。やりたいことは……まだ決まっていません」
そこまで言って、少しだけ言葉を継いだ。
「中学では、バスケをしていました。放課後はよく図書室にいて……静かな場所が好きだったので。
気づけば本を読むより、ぼーっとしてる時間のほうが長かった気がします」
「あと、ゲームが好きです。上手いわけじゃないんですけど、家でよくやってました」
それを言った瞬間、教室の空気が少しだけ和らいだ気がした。
どこかで小さく笑う声がした。
「高校では、何かひとつくらい続けられるものを見つけたいと思っています。……よろしくお願いします」
軽く頭を下げて席に戻る。
心臓はまだ少し早いけれど、言いたいことはちゃんと伝えられた気がした。
隣を見ると、翼がそっと目を合わせてかすかに微笑んでいた。
ホームルームが終わると、教室の空気が一気にゆるんだ。
椅子を引く音や、友達同士の小さな笑い声があちこちで混ざり合う。
僕は教科書を鞄にしまいながら、今日一日の疲れがじわりと押し寄せてくるのを感じていた。
今日のことはどれも大したことじゃないはずなのに、慣れない緊張がずっと続いていた。
隣を見ると、翼は静かに鞄を整理していた。
目が合うと、ふわりと微笑んでくれる。
それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「…また明日」
翼が小さく手を振る。

僕も同じように手を上げて返した。
教室を出ると、廊下には新入生たちのざわめきが満ちていた。
まだ名前も知らない人ばかりだけれど、
この中でこれから毎日を過ごしていくのだと思うと不思議と胸が軽くなる。