「最近、お兄ちゃん冷たい」
いつもの夕方。
いつもなら隣でコントローラーを握っているはずのミユキが、今日はぼーっと立ったまま動かない。
「……今日も、友達とやるの?」
声は小さいのに、刺る。振り返るけど、ミユキは目を合わせてくれない。
「いや、佐久間と…えとな……たまたま最近、誘われること多くてさ」
言い訳にしか聞こえないのは自分でも分かっていた。
ミユキは唇を噛んで、ぽつりとこぼす。
「前は……毎日一緒にやってたのに。なんで急に、私より友達のほうがいいの?」
その言葉に、胸の奥がぎゅっとなる。
怒っているというより、拗ねているというより――**置いていかれたみたいで寂しい…
そんな顔だった。
寂しかった”の先にある言葉は、恥ずかしくて言えない。
だから二人の間に、短いけれど重たい沈黙が落ちる。
ミユキは言い終えると、
自分で言った言葉に少し驚いたように、視線を落とした。
返事を返そうとしたいのに、喉の奥で言葉がつかえた。
「……いや、その……」
言い訳でも謝罪でもない、何を言えばいいのか分からない沈黙。
ミユキは、その“詰まり”に気づいたのか、
小さく肩をすくめた。「別に……いいけどね。友達と遊ぶほうが、楽しいんでしょ」
声は普通に聞こえるのに、語尾だけがほんの少しだけ沈んでいた。
その微妙な変化に気づく。でも、どう触れていいか分からない。
(楽しいけど……)
そこまで思って、言葉が止まる。
“ミユキと遊ぶのも楽しい”そう言えばいいのに、言った瞬間に照れが込み上げるのが分かって、言えない。
ミユキも同じ“寂しかった”の先にある言葉は恥ずかしくて言えないのだろうか。
・・・
だから二人の間に、短いけれど重たい沈黙が落ちる。
沈黙が落ちた部屋で、ミユキは足元を見つめたまま、指先で袖をいじっていた。
何か言わなきゃと思うのに、喉の奥が固まったみたいに動かない。
“友達とは楽しいけど、ミユキと遊ぶのはもっと楽しい”その一言が言えれば全部済むのに、
言った瞬間に自分が照れるのが分かっていて、どうしても言えない。
ミユキも同じだった。
“寂しかった”の先にある言葉――
「もっと一緒にいたかった」
「前みたいに遊びたかった」
そんな本音は、恥ずかしくて言えない。
だから、二人とも黙った。
けれど、その沈黙は気まずさだけじゃなくて、互いの気持ちがぶつかって、
どちらも言葉にできないまま揺れている、そんな重さを含んでいた。
ミユキは、ほんの少しだけ息を吸って、こっちを見ないまま言う。
「……別に、いいけどね」
返事をしようとして、また喉がつまる。
「……いや、その……」
言葉にならない。
でも、言葉にならないことが、逆にミユキには伝わってしまう。
ミユキは小さく肩をすくめた。
「今日、一緒にやるなら……それでいいよ」
その声は、強がっているようで、でもどこか期待しているようでもあった。
僕は、ようやく息を吐く。
ミユキはコントローラーを握ったまま、しばらく黙っていた。
こちらから何かを言うのを待っているようで、でも自分から言うのは恥ずかしいのか。
そんな微妙な空気が続く。そして、耐えきれなくなったみたいにぽつりと、でもはっきり言った。
「……今すぐやって!」
言ったあと、ミユキは自分で驚いたように目を丸くして、すぐに視線をそらした。
強い言い方になったのは、怒っているからじゃない。
恥ずかしさをごまかすために、声が少しだけ強くなっただけ。
「……うん」
落ち着いた声で返すと、ミユキの肩がほんの少しだけ下がった。
安心したときの、あの小さな動き。
でも、顔は見せない。
嬉しいのを見られるのが恥ずかしいから。
「べ、別に……無理にじゃないし」
語尾が弱い。
強がりがすぐに剥がれる。
されど、それを笑わない。
からかわない。
そういうのをされると、ミユキはまた黙り込むから。
「じゃあ始めるか」
その一言で、部屋の空気がようやく落ち着いた。
ミユキは小さく頷いて、隣に座る。
距離は近いけど、触れない。
触れないけど、離れない。そんな距離だった。

今から二人で協力して、MOBだらけの世界へ冒険をする。
されど、心あらず…
画面の向こうの混沌と、現実の微妙な空気は、かろうじて均衡を保っていた。
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